東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)252号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで審決の取消事由について検討する。
1 取消事由1について
(一) (切込溝の深さ、強さについて)
成立に争いのない甲第五ないし第七号証によると本願考案の明細書には切込溝の深さ及び強さに関する具体的な記載はなく、また蓋本体を瓶に巻締めて固着する作業(巻締め作業)が不可欠のものであることについての記載もないが、考案の詳細な説明の項には、実施例の説明として蓋本体の周壁5の下端を巻き締めによつて固着する旨の記載(二欄二三ないし二八行)があるほか、図面第一図に図示された蓋本体4は、その形状からみて右の巻締め作業が行われたものであることが認められる(別紙(一)図面の第一図参照)。
一方成立に争いのない甲第二号証によると、引用例1には、「本例においてキヤツプは容器から完全に取り外せるように構成され、そのため、第一〇図及び第一一図に示すような輪郭の部分的切り込みを備えている。具体的に述べると、大体かぎ穴状輪郭の頂部212に部分的切り込み線222が設けられ、この頂部を外側U字形環状部分226と、中央除去部分228とに分割する。頂部における部分的切り込みの平行脚部228a、228bは側縁部上を延びて、側壁部において230a、230bで示すように内方に細まつている。」(訳文(三)項)と記載されていることが認められ、この記載及び引用の第一二図に示された容器(瓶)から除去された後の蓋の形状からすれば、引用例1におけるキヤツプ210は、蓋部材260を引き起こすことによつてキヤツプ本体から分離可能部分228が部分切込線に沿つて分離されるものであることは明らかである。そして前掲甲第二号証によると、引用例1の第九図及び第一二図に示されたキヤツプ210の下端縁の形状及び同第三図のこれに対応する部分34の形状からすれば引用例1のものにおいても容器蓋の下端縁は巻締め作業によつて屈曲させていることが認められる。
そこで考えるに、部分切込線(本願考案における切込溝)の深さ及び強さを選定するに当つては、他に特段の必要がなければ、その本来の機能に照らして分離可能部分が引張力によつて分離できる程度であれば足りるが、別に製造工程において巻締め作業を行う必要があつてその作業時に切込溝部分に前記引張力とは別の力が加わる場合には、この力によつて切込溝が破裂することがあつてはならないのであるから、右作業時に加わる力がどの程度のものであるかを算定しこれを考慮に容れてその深さ及び強さを具体的に選定すべきは当然であり、この点は当業者が具体的事情に応じて任意に決すべき事項といわなければならない。このことは、切込線を有しかつ巻締め作業を行う点で本願考案と同様である引用例1に関する前記認定事実に照らしても明らかである。
次に、本願考案が加熱滅菌を行うことを不可欠とするものでないことは後述のとおりである。
そうすると、審決が切込溝(部分切込線)の深さ、強さの点について判断するに当つて、巻締め作業や加熱滅菌作業の点について考慮しなかつたことに誤りはなく、原告のこの点の主張は採用できない。
(二) (切込溝の方向性について)
(1) 当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲によると、切込溝の形状については、「鍵穴状を呈する切込溝7をその外方に向かつて拡開した形状」としているだけであつて、拡開の角度や切込溝の開放端部(切裂き開始部)における大きさ(円周との割合など)について特段の限定はない。そして前掲甲第五号証によると本願考案の図面には、実施例として別紙(一)図面の第二図に記載された形状のものが示されている。
一方前掲甲第二号証によると、引用例1の第一〇図には平行な部分切込線228a、228bが部分切込線230a、230bに接続する切裂き開始部の幅が、前記本願考案の実施例における開放端部の幅とほぼ同程度の大きさのものが示されている(別紙(二)第一〇図参照)。
そうすると、本願考案の切込溝の開放端部における幅と引用例1のそれとの間には大きさにおいて実質的差異はないというべきである。従つて、大きな切裂き開始部を形成させ切込線から切裂きが外れた場合でも、先細りの三角形の形状を大きくし、切裂きが周壁部分で途切れることを防止するとの効果は本願考案に特有のものであるということはできない。
(2) 前記本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本願考案の対象は「瓶の外装蓋」であつて、この瓶が薬用瓶に限定すべき記載はない。もつとも、前掲甲第五ないし第七号証によると、本願考案の明細書中考案の詳細な説明中には、原告が主張する(ア)ないし(エ)のような記載のあることは認められるが、これらの記載は本願考案の実施例に関する記載であるから、このような記載から本願考案の対象とする瓶が薬用瓶に限定すべきものとは解されず、他に本願の明細書、図面に右のように限定して解すべき記載は見当らず、また瓶に内容物を充填した後に加熱することが不可欠であると解すべき記載も見当らない。
そうすると、本願考案は薬用瓶に係るものであつて薬液充填後加熱滅菌を行うことを前提とするものであるということはできない。(なお、成立に争いのない甲第九ないし第一四号証によると、これらはいずれも瓶の蓋に関する実用新案公報であるが、その各実用新案登録請求の範囲には「薬用瓶」であることが限定明記されているものであるから、本願考案とは事例を異にするので、右甲号各証は前記認定を左右しない。)
更に、本願考案の明細書(前掲甲第五ないし第七号証)を検討しても、拡開した切込溝が加熱の際に剥離部の浮き上がりを防止するとの作用効果についての記載は全くなく、却つて考案の詳細な説明中には、「外蓋12を蓋本体4に比較的きつい状態で嵌合させておけば蓋本体4における切込溝7などの形成による強度不足を外蓋12が補償し蓋本体4を保護する」との記載が認められる(四欄七ないし一〇行)。
このように、本願考案が薬用瓶に限定されるものではなく従つて薬液充填後加熱滅菌を行うことを前提とするものではなく、しかも加熱時に剥離部の浮き上がり防止に関する効果について記載がない以上審決がこのような点について考慮しなかつたことに誤りはなく、原告のこの点の主張も採用できない。
(三) (引張力のバランスについて)
本願考案の明細書(前掲甲第五ないし第七号証)を検討しても、切込溝が拡開した構成に伴い、引張力がいつたん狭小部分に集約された後幅方向に分散することにより、左右の引張力にアンバランスが生じにくくなり、ひいて切裂き部の先細り現象を防止するとの効果に関する記載は全くない。しかも前掲甲第五号証によると、本願明細書には「外蓋12を切開溝8の位置する側から上方に持ち上げるように力を加えれば、外蓋12は頂面6の剥離部9とともに切込溝7部分から分離し」(三欄一九ないし二二行)と記載されているところから明らかなとおり、引張力はまず外蓋12に加えられ次いで剥離部9に伝達するものであるところ、右引張力が伝達するのにまず狭小部に集約された後に幅方向に分散すると却つて左右に力のアンバランスが生ずるおそれがあるので、むしろ引用例1のもののように左右平行な部分切込線に沿つてこれと同一方向に伝達する方が力のバランスを保持できると解するのが自然であり、原告の主張する作用効果は自明のこととはいえない。
そうすると審決がこのような作用効果について考慮しなかつた点に誤りはなく、原告のこの点の主張も採用できない。
2 取消事由2について
前記本願考案の実用新案登録請求の範囲によれば、本願考案の外蓋は「切込溝7を判別できる透明又は半透明の合成樹脂」によつて構成されるものであり、前掲甲第五号証によると、その目的、効果は、「外部から切込溝7や切開溝8の刻設状態を判別できるので、外蓋12の操作方向を容易に定めることができる。」(四欄五ないし七行)ことにあることが認められる。また、本願考案は瓶の外装蓋に係るものであつて、薬用瓶の外装蓋に限定されるものでないことは前述のとおりである。
一方、引用例2及び3にはそれぞれ審決が認定するとおりの記載(審決の理由の要点2の(二)、(三))があることは当事者間に争いがなく、また成立に争いのない甲第三号証によると、引用例2のものは「飲料水缶詰の孔明け具」に係る考案であり、これには、「帽冠体aは透明あるいは半透明の合成樹脂を使用することが理想的である。かくすることにより開孔状態……を外部より透視することが出来、脱冠の時期を知ることが出来るからである。」(一頁右欄一六ないし二〇行)と記載されていることが認められる。
以上のことからすると、本願考案と引用例1及び2は共に容器の外装蓋に係るものである点で共通するから技術分野を異にするということはできず、また前述のとおり外蓋を透明又は半透明とした目的、効果も本願考案と引用例2との間に差異がないことをも考慮に容れると審決が相違点(2)について引用例2及び3に記載されたところから極めて容易に想到し得るものであるとした判断に誤りはない。
従つて取消事由2の主張も採用できない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)は左のとおりである。
アルミ等の軟質金属を以て倒皿状に形成した蓋本体4の頂面6に鍵穴状を呈する切込溝7をその外方に向かつて拡開した形状の開放端部が周壁5に設けた切裂き補助用のスリツト7′、7′の上端部と接するように刻設して切込溝7に囲まれる内側を剥離部9とし、前記切込溝7の頂端部上方には周壁5の上端に達する切開溝8を刻設するとともにこの蓋本体4の上面には、前記蓋本体4の頂面6に刻設した切込溝7を判別できる透明又は半透明の合成樹脂製の外蓋12を冠着し、外蓋12の下面中央に突設した取付部13を剥離部9の中央に穿設した取付孔14に挿入して一体的に固着してなる瓶の外装蓋。